あしたがくるまえに

真剣30代しゃべり場

不倫

 

 


ふりん【不倫】
( 名 ・形動 ) [文] ナリ 
道徳に反すること。特に、男女の関係が人の道にはずれること。また、そのさま。 「 -の恋」 「 -な関係」 「我孫を坊様ぼつちやまの嬢様のと。-千万な尊号を奉りて/二人女房 紅葉」
大辞林 第三版』(三省堂

 

あなたのことはそれほど」というW不倫のドラマが始まるので、コミックを読み返している。中学時代の同級生が再会したことで始まってしまう不倫の話だ。とにかくいくえみ綾作品独特の、人間の屈折した嫌な部分が出まくっている作品だと思う。
登場人物全員どこかおかしくて、この作品に出てくる誰にも共感なんてできない。だけど、わたしの知らない結婚後の世界での話だから、もしかしてこれがリアルなのかもしれない、とも思わせられる。
結婚って何だろう、好きって何だろう、親になってまで誰かを好きになることなんてあるのだろうか。守るべきものを捨てる、もしくは捨てさせてしまうリスクと隣り合わせの恋に、価値なんてあるのだろうか。
わたしは自分が未婚者だから、正直既婚者同士の不倫は全くもってよく分からない。
だけど、未婚者が既婚者をすきになってしまうケースって、言わないだけで結構あると思う。わたしも、恋までとはいかなくとも「恋愛対象として素敵」だと思う人の半分は、既に結婚して誰かのパートナーになっているからだ。わたしには不倫をしてしまう人たちの気持ちの全ては解らないけれど、漠然と、きっとしんどいものなのだろうとは思う。
既婚者を好きになることは自由だ。それだけなら誰も咎めることはできないし、他人からやめろと言われてやめる必要もないとわたしは思っている。だけどそれは、自制ができるときまでの話だ。
歯止めが効かなくなったそのとき、その美しい恋は無残に砕け散り、不倫という底なし沼にズブズブと沈んでゆく。そして、世間からは立派なクズ、またはゲスの称号が与えられる。おめでとう。


「なぜ不倫がいけないのか」と言われると、説得力のあることを言えなくて困る。わたしが不倫を悪だと思う理由は子どもじみていて「自分がされると嫌だから」「結婚は法律で取り決められた契約だから」というだけだから。
最近、世間は不倫にやたら厳しくて、不倫が発覚したらその人間を徹底的に叩きまくる。
まあ間違ってはいない。けれど、わたしは不倫をしているというだけでその人をクズだとか最低の人間だとか、そういう風に思ったことはない。ただ、その想いを口に出して、行動に移してしまう醜い行為だけを、罪なことだと思う。
もしも自分が選んだ一生のパートナーが知らないところで他人を愛していたなら、そして、それを隠されていたなら、めちゃくちゃ悲しいに決まっている。子どもがいればなおのことだろう。それに、きっと不倫をしている方も、されている方も徐々に疲れていつか潰れてしまう。現実は汚い。ドラマや映画や小説みたいに美しいわけがない。不倫の恋には、皆が幸せになれる結末は用意されない。消耗して、消耗して、消耗し尽くした先には誰かの不幸しか待っていない。

 

あなたのことはそれほど」の主人公、美都は、中学時代からの親友に不倫を否定されたとき、涙しながらモノローグでこう語る。
「知らないくせに 知らないくせに 知らないくせに!動物で何が悪い 未来がなくて何が」
未来がない。なんて辛い恋愛だろう。それでも不倫をしている人は皆、ほんの少しの幸せや刹那的な安らぎのために心を痛めている。
不倫だって恋だ。せっかく誰かを好きになったのに、不倫だなんて人道に背いたことのような嫌な呼ばれ方をする、その恋が可哀想だと思う。
ほんとうに可哀想だと思う。