Last Summer Whisper
先日、失恋をした。とても好きな人だった。だけどとても独りよがりで、はっきり言って虚しい恋だった。
連休の終わりに、もう会わないでいようと話した。その日は眠れなかった。最悪のスタートを切ったその週は、眠ろうと布団に入ると頭の奥の方が熱くなり、しょっぱい涙がスルスルと頬を落ちてくる。それが何日か続いた。今になって思えば、好きな人が自分を選んでくれなかったこと、それが一番に辛かった。なんてワガママで幼い好意だろう。
金曜の朝、耐えきれなくなって体調が悪いと午後から半休を取った。
スタバでサンドイッチとコーヒーを買って近くの海に行くと、いい風が吹いていて、サーファーたちが気持ちよさそうに波に乗っていた。
30分ぐらいボンヤリとそれを見ているうちに「今しかない」という気がしてきて、思い立ったと同時に不動産屋の扉を叩いた。そして、その日に一人暮らしを始めることを決めた。リセットして、一刻も早く新しい環境に身を置きたかったのだと思う。
契約を終えると、その足でよく行くアパレルショップに向かった。服ではなく、華奢なストラップが女性らしい、細いヒールのついたミュールと、ウォールカラーのチャンキーヒールの夏らしいサンダルを買った。
「珍しいですね、ヒール選ぶの。ヒール履くと印象全然変わるやん、絶対履いたほうがいいですよ」会計をしながら、いつもは話さない意識高い系の店員が話しかけてきた。
わたしは、自分の背が低いこともあって、元々ヒールのついた靴が大好きだった。履くと自分が魅力的に思えたし、少し強い女になったような気がするから。だけど、この1年は、ビーチサンダル、スニーカー、バレエシューズ、ブーツ、全てぺたんこの靴しか買わなかったし履かなかった。
わたしが好きな人は、わたしが10センチのヒールを履くとその背を追い越してしまう小柄な人だった。背の高い人が好きだったけど、身長なんか別にどうでもよかった。彼と居る時間が長くなるほどに、スニーカーやフラットシューズが好きになった。大好きだったヒールのついた靴は履かなくても平気になった。
だけど、今年の夏はたぶん、ヒールのついたサンダルも必要だと思った。
ぺたんこの靴を履いて歩いていた今年の冬、ウィルスに侵された武漢の人々が暗闇の中でライトを灯し合い、お互いに励まし合ってる動画をTwitterで他人事のように見ていた。
当然のことだけど日本にもそのウィルスは程なくして入ってきたし、たくさんの人たちを悲しませた。この国の誰もが愛する惜しい人も亡くした。
事態は今、緩やかに収束に向かっている。それに安心して、学習しないわたしたちはきっとまた同じことを繰り返す。終わりは1年後、もしかしたら2年後かもしれない。もっと長く続いていくのかもしれない。
でも、それでもきっと緩やかに終わっていく。